発達性協調運動症(DCD)とは
年齢や練習量に見合わないほど、体の動きの「協調」が難しい状態です。日本では知られていないことが多く、「運動が苦手なだけ」「不器用なだけ」で見過ごされがちな特性です。
かんたんにいうと
- 体を思うように動かすことが、とても難しい状態です。
- 練習不足やなまけではありません。
- 道具や やり方 を変えると、できることが増えます。
なぜこのページを作ったか
発達障害の解説では、ASD・ADHD・SLDの3つが取り上げられることが多く、DCDは省かれがちです。日本の発達障害者支援法の条文にも明示されていません。
しかし DCD は、DSM-5-TR では神経発達症群のひとつとして正式に位置づけられており、子どもの5〜6%(5〜11歳)にみられるとされています。決してまれな特性ではありません。
「運動が苦手なだけ」「不器用なだけ」で片づけられると、体育・図工・給食・板書といった学校生活のあらゆる場面で毎日つまずき続けることになります。ここを知っているかどうかで、子どもの毎日はかなり変わります。
診断の基準はどうなっているか
DSM-5-TR では、発達性協調運動症(Developmental Coordination Disorder)は次の条件で定義されます。
- 協調運動技能の獲得と実行が、年齢や学習・使用の機会に比べて明らかに劣っている(不器用、動作が遅い・不正確)
- その困難が、日常生活の活動を著しく持続的に妨げている(学業、就労、遊び、身のまわりのこと)
- 発達の早い時期に始まっている
- 知的発達症や視力の問題、運動に影響する神経疾患(脳性麻痺など)では説明できない
どんなことが難しいか
「協調」とは、複数の動きを組み合わせて、なめらかにひとつの動作にすることです。ひとつひとつの筋力ではなく、組み合わせの部分が難しくなります。
手先の動き(微細運動)
- はしやスプーンがうまく使えない、こぼす
- ボタン、ファスナー、ひもを結ぶのが難しい
- はさみで線に沿って切れない
- 鉛筆の持ち方が定まらない、筆圧が強すぎる・弱すぎる
- 定規で線が引けない、コンパスが使えない
- 字が整わない、書くのがとても遅い
全身の動き(粗大運動)
- 走り方がぎこちない、よく転ぶ
- 縄跳び、鉄棒、跳び箱、球技が苦手
- ボールを目で追って捕るのが難しい
- 自転車に乗れるまで時間がかかる
- 階段の上り下りが不安定
日常生活
- 着替えに時間がかかる
- 歯みがき、洗髪、爪切りが難しい
- 給食の配膳でこぼす
- 姿勢を保てず、机に伏せてしまう
他の特性との重なり
DCD は、他の発達特性としばしば重なります。
- ADHD — 重なることが多いと報告されています。動きの多さと不器用さが同時にある場合、どちらの特性なのか切り分けが必要です
- SLD(書字) — 「字が書けない」の原因が、文字と音の結びつきなのか、手を動かすことなのか。DCDが背景にあると、書字の練習を増やしても改善しません
- ASD — 協調運動の困難をともなうことがあります
詳しくは併存とグレーゾーンをご覧ください。
家庭と学校でできる工夫
DCDでは、練習量を増やすことが必ずしも解決になりません。 動作そのものを変える、道具を変える、求める到達点を変える、という方向で考えます。
道具を変える
- 太めの鉛筆、グリップ、滑りにくい下敷き
- 補助のついたはし、すくいやすい形の食器、滑り止めマット
- ひもの代わりに面ファスナーの靴、大きめのボタン
- マス目の大きいノート、罫線の濃いノート
やり方を変える
- 書き写しの量を減らす。板書は写真で残す
- タブレットやキーボード入力を認める
- 着替えや準備の時間を長めに取る
- 手順を1ステップずつに分けて、ゆっくり示す
求める到達点を変える
- 体育は「上手にできること」ではなく「参加できること」を目標にする
- みんなの前で1人ずつ実演する場面を避ける
- できた部分を具体的にことばにして返す
気をつけたいこと
DCDのある子どもは、体育や図工など周囲から見える場面でつまずきます。人前で「できない」を繰り返し経験することは、自信に大きく影響します。
運動そのものを避けるようになり、結果として体力や活動量が下がっていく、ということも起こります。「やればできる」「練習が足りない」ということばが、最も届いてしまう特性でもあります。
まず「これは努力の問題ではない」と大人の側が理解することが、いちばん大きな支援になります。
出典
- DSM-5-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル 第5版 テキスト改訂版(American Psychiatric Association, 2022)
- ICD-11 for Mortality and Morbidity Statistics(World Health Organization)↗
- 発達障害ナビポータル↗